年に何度か

年に何度か書くブログ。昔は日記だった。

第4話

[第1話][第2話(id:kuwa:20020507:p05)][第3話(id:kuwa:20020508:p02)]

「素子さ・・・! おじいさん!?」
「!? じじい!」
「み、みなさん!」
おばあさん、素子、青木がほぼ同時に声をあげました。
「い、いったい何が起こったんじゃ??」
おじいさんも少し遅れて我に返り、みんなの顔を見ました。
「やっぱり生きとったんね? どこ行っちょったん? 心配じゃったんよ?」
おばあさんは半年ぶりの再会があまりに突然だった為、思わず持っていたびしょ濡れの洗濯物を落としました。その中には、おじいさんが戻ったら穿けるようにと念入りに洗っていた勝負パンツもありました。
「今まで一緒にいたじゃろ。とうとうボケが始まったかの?」
おじいさんは、おばあさんの言葉の意味も、何故洗濯物持っていたのかもがわかりませんでした。
「じじい、2ヵ月もどこ行ってたんだよ! 口には出さないけど、ばあさん相当落ち込んでたハズだぞ。」
「素子も何言ってるんじゃ? ってゆーか、その格好はなんじゃ?笑うぞ。」
素子はとっておきのドレススーツを身に纏っていましたが、贅沢な暮らしが長い為か、深緑色の上着についた金色のボタンはいつ弾け飛んでもおかしくありません。
「(おばあさん、素子さん、おじいさんもよくご無事で・・・)」
青木はトランクス1枚でした。転入したと思ったら足を引っ掛けられ、その足を引っ掛けたクラスメイトが突然消えた事に胸騒ぎを感じた青木は通信教育で空手を習い始めました。実践する機会は無かったものの、元々コツコツと努力する性格だった為、1年間で風貌に見合った力が付いていました。青木本人はまだその力がどの程度の物か認識できておらず、気弱な正確はそのままだったせいか、安堵の声を漏らしたつもりが声にはなっていませんでした。
「それより、ここはどこなんじゃ? なんとなく懐かしいようなそんな気がするんじゃが・・・」
おじいさんが今一番の疑問を口にしました。おばあさんもその言葉を聞いて同様の想いを抱きましたが、おじいさんが目の前にいる事がゆっくりと心の中に浸透して行き、やがてそのつぶらな瞳溜まっていた涙が零れ落ちました。
噛み合わない会話が続いていました。噛み合わないながらも、青木の転入日におじいさんが消え、2ヵ月後に素子、その4ヵ月後におばあさん、そのまた半年後に青木が、それぞれが突然この場所に来た事がわかってきました。その会話の輪の中に全く違和感無く佇む者の存在を、4人はまだ気付いていませんでした。

- 続く -(id:kuwa:20020528:p03)